「青のオーケストラ」レビュー/書評:アニメ化も楽しみ、“高校”ならではの視点で描く青春音楽マンガ

青のオーケストラ

「青のオーケストラ」(阿久津真)は高校のオーケストラ部を舞台にしていて、中学生〜高校生の主人公たちが、彼らの年代らしい悩み向き合いながら音楽に取り組んでいく姿を描いた、青春群像劇です。

序盤は中高生らしい悩み全開の青春マンガ

主人公の青野一(ハジメ)は、ヴァイオリニストである父親に小さいころからヴァイオリンを教え込まれ、全国コンクール優勝経験もある優れたヴァイオリン奏者です。ですが、父が不倫に走り家族を捨てたことから、中学時代に一度ヴァイオリンをやめてしまいます。

ヒロインの秋音律子は、友達のいじめ問題に絡んでクラスで孤立しながらも、有名なオーケストラ部がある海幕高校に進学して、その友達と一緒にヴァイオリンを弾くことを目標に取り組む、ヴァイオリン未経験者です。

ハジメと律子はオケ部の経験を持つ熱血体育教師によって引き合わされ、最初は反発し合いながらも、やがてお互いを認め、力を合わせていくようになる…。そんなストーリーが、本作の序盤では展開されます。

天才的な演奏者がチャンスを掴んで世に出て、聴衆を虜にしていく…。本作はそんな筋立てではなく、ハジメほか登場人物たちの演奏はまだまだ未熟で、成長すべき余地が大きいことが示されます。

彼らが高校に入学した時点でのオケ部3年生たちは、憧れの存在である極めて高いレベルの演奏者として描かれます。一方で、2年生はそれぞれ問題を抱えた悩める先輩たちで、ハジメたちと時に協力し合いながら、演奏を完成させていくことになります。

「ドラマパート」と「演奏パート」が印象を深め合う

本作は「ドラマパート」と「演奏パート」に分かれる、と言っていいかもしれません。

オーケストラは全員のチームワークというか、演奏を合わせることが欠かせません。ソリストとしては高いレベルにあるハジメでも、オーケストラでの演奏には、まだまだ足りないことが多い。また、ほかのメンバーもそれぞれに課題や問題を抱えていて、思わぬ新たなトラブルに遭遇したりもします。

それらをいかに乗り越えていくか、そして、どのように演奏として結実させるかが、見どころの1つだと言えるでしょう。

ドラマパートの中でキャラクターたちが問題に向き合い、答えを出していく描写は理路整然としていて、もしかすると「物分かりがよすぎる」といった印象を持つかもしれません。

個人的には、そこにオーケストラをテーマに持ってきた妙味があると思っていて、音楽への憧れとか、「最高の演奏をしたい」という思いから生まれる並外れた強い意志が、わだかまりや悪意や恐怖や、その他もろもろの困難を軽やかに乗り越えさせるのだろうと思います。

本作の演奏パートには、そういった「心の力」とでも言うべきものの存在を信じさせる説得力があります。第1話冒頭の、コンクールで懸命にヴァイオリンを弾くハジメの姿には、一所懸命に打ち込む純粋さを感じるし、第3話で彼が律子の前で弾いてみせる場面は、夕暮れの河川敷という舞台をうまく使って、心に染みる演奏なんだろうなと思わせます。

「青のオーケストラ」1巻 第3話より。表紙のカラーの絵はちょっと古めかしく感じましたが、本編のモノクロの絵柄はクリアで柔らかい。カラーとモノクロで絵の印象がけっこう変わる作家さんだと思います

高校に入ってからのオケの演奏シーンはもはやSFX(特殊映像)の域で、ドヴォルザークの「新世界より」の演奏シーンでは、背景をSLが走ったりします。これは、高校生らしい明快な解釈、といった意味もあるのかもしれません。

とにもかくにも演奏シーンのビジュアルが凄まじくて、それに憧れる登場人物たちの心情も自然と「わかって」しまう。そのパワーがすごい。アニメ化が発表されていますが、どんな映像になるのか楽しみです。

「プロになる」だけでない音楽人生が示されるのがユニーク

ドラマパートでハジメや律子ほかのメンバーが向き合う問題は冷静に考えるとかなりヘビーで、一歩間違ったら、そのまま腐ってグズグズになってしまっても不思議ではないように思えます。それでも、音楽への強い思いが彼らを引っ張っていきます。

現在の最新刊である10巻の段階で、今後どうなっちゃうのかなあと思わずにはおれない問題も進行中ですが、おそらく、そう悪い結末にはならないだろうと思わされます。その理由の1つには、ハジメと律子を導いたオケ部OBの体育教師のような人がいるからかもしれません。

途中でオケ部を離れる先輩が登場したりもしますし、素晴らしい演奏をしたオケ部3年生たちも、音大に進学して演奏活動を続けるとは限らないようです。

音楽を真正面に据えた作品では、プロとなることがゴールあるいは大きな節目であり、そうならなかった人たちは、どうしても「敗者」のような印象で物語からフェードアウトして行きがちです。その点で本作は、プロとして成功することだけでなく、音楽に関わることで人生が豊かになっていくさまざまな形があるよ、といった視点が感じられるのもいいなと思います。

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